『残像に口紅を』筒井康隆


それでさっそく家人に「筒井康隆の『残像に口紅を』ってもってる?」と尋ねたら、持っているとのことで、さっそく出してきてくれた。見れば初版本だ。しかも終わりの方三分の一ぐらいが封印されていて、「もしもここまで読んで来て内容が面白くなかったら、封を破らずに返品してきたらお金は返す」といったことが書いてあった(^^ゞ


家人は封を破っていなかった。「読んでいないのか?」と尋ねると、図書館から借りるなどして最後まで読んだという。「これを貸してくれるからには、わたしは封を破って読んでいいのだろうね?」と尋ねると、それはダメだという。


なんだかラチがあかないので、せっかくハードカバー初版本が家にあったというのに、その後に出た中公文庫版を買うことにした。

残像に口紅を (中公文庫)

残像に口紅を (中公文庫)


この作品で筒井康隆は、使用できる音を徐々に減らしていき、最後には何もなくなるというシチュエーションを設定している。さすがに筒井さん、うまいものだから、いよいよ最後の方になるまで特に違和感なくお話を楽しむことができた(^^ゞ


で、この文庫版には、ハードカバー版にはない「解説」がついている。(おまけ付きでお得です!)その解説というのが、ある先生が、この筒井作品をテーマとして学生に書かせた計量国語学の卒論そのものなのだ。詳細は省略するが、『残像に口紅を』という作品も、このまじめな卒論も、なにもかもがまじめといえばまじめ、どこかこっけいといえばこっけいで、楽しくも奇妙な気分にさせられた(^^ゞ


それはともかく、この「解説」によれば、筒井はこの作品の中でルール違反を5度冒しているという(すでに消滅したはずの音をうっかり使ってしまった)。まだ現在のようにパソコンでの検索が使えなかった時代であることを思えば、ルール違反がたった5度というのは、驚くべき力業ではないだろうか。筒井康隆っていう人は、妙なことに莫大なエネルギー使っとるなぁ〜、などと、しょうもない感心のしかたをしてしまった(^^ゞ