『素数ゼミの謎』吉村仁・著 石森愛彦・絵

素数ゼミの謎

素数ゼミの謎

北米大陸には13年、17年の周期で大発生する蝉がいる。従来、この蝉がそんな奇妙な習性を獲得したのは、捕食者との競争による選択圧がかかったからではないかと言われてきた。


本書は、素数ゼミがこんな性質をもつように進化してきた主たる原因は、配偶者を獲得するための性選択であったとする研究者吉村仁氏が子供向けに書いた本である。わたしは常々、優れた子供向けの本は優れた大人向けの本であると思っているが、本書もそんな一冊だ。


とくに感心させられたのは、素数ゼミ進化の要因を性選択とするにあたり、まずは、

1 どうして長い周期で発生するようになったのか(氷河期という苦難)

2 どうして狭い領域で大発生するようになったのか(配偶者を得るために)

という外堀からきちんと埋めていること。この論法はたいへん説得力がある。素数周期という奇妙な性質は、いわばケーキのトッピングのようなもの。重要ではあるが、ケーキはやっぱりスポンジが良くなければ話にならないのだ。


石森愛彦氏の絵も、内容に沿ってよく考えられたすばらしいもので、本書の完成度に大きく貢献していると思う。科学研究の重要な成果が、こんなにきれいで楽しく読みやすい作品になるなんて。プレゼントとしていろいろな人に贈りたい本だ。