『英国レディーになる方法』

英国レディになる方法

英国レディになる方法

これは少女のあこがれに応えるロマンティックな本でも、「玉の輿に乗りました」的エッセイ本でもない。80ほど(けっこう多い!)を選び、それを切り口にしてヴィクトリア朝というものを眺めてみようという本である。80の項目は、著者たち(英文学研究者)がヴィクトリア朝に書かれた小説を読む中で、「いったいこれは何だろう」「いったいこれはどういうこと?」とひっかかったものだそうだ。なるほど、選ばれたもの項目はさりげない日常の小道具だったりするが、しかしそこにはヴィクトリア朝の社会・経済・文化が濃縮されている。


本書のはじめのほうでは、結婚市場に商品として送り出されていく娘たちの身辺が描かれているので、「英国レディーになる方法」というタイトルに沿っているが、しかし本書の内容はそれだけではなく、娘時代以降の生活や、ヴィクトリア朝に発生したともいえる「子ども時代」のこと、さらには四季の行事にも広がっていき、相当多角的だ。


本書を読んで一番意外だったのは、「ヴィクトリア朝と現代は地続きなのだ」という、考えてみれば当たり前の事実をひしひしと感じさせられたこと。これは著者たちがしっかりした歴史的パースペクティブをもっているおかげだろう。そのおかげで本書は、単なる雑学本に留まらない深みを威力をもつことになった。