『円環の破壊』M・H・ニコルソン著 小黒和子訳

円環の破壊

円環の破壊


わたしたちは、円環の破壊された後の時代を生きている。そう自覚することにより、わたしはケプラー以前の人々に一歩近づけたような気がする。

話はちょっとずれるが、ニュートンは言うに及ばず、コペルニクスの段階でもすでに数学がきわめて重要だったという点は注目に値するだろう。さきほど引用したコペルニクスの言葉にも、「幾何学の素養のない者は……」とあるし、『回転について』のなかでも、彼は再三、「数学をよくわかってない連中が……」みたいなことを書いている。実際、コペルニクスは自分のアイディアの源泉となった古代ギリシャの自然哲学者の名前をたんねんに挙げており、アイディアだけだったら、独創的な仕事でも何でもない。重要なのは、「単なるお話」としてすませられないだけの、数学的体系と精度を獲得していることなのだ。


ケプラーは円環を破壊し、ニュートンは美意識の変革を成し遂げた」と言うことができるのかもしれない。