『ホイットマン詩集』木島始編
- 作者: ホイットマン,木島始
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1997/03/17
- メディア: 文庫
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やっぱり詩の翻訳は対訳がいいな、と思う。英語だけではわからない。日本語を読んで、また英語を読む。それができるのはありがたい。木島氏の「まえがき」もコンパクトで余韻があり、しっとりと読めたし、ほどよい脚注も理解の助けになる。
ところで今は昔のことながら、『ソフィーの選択』という本があった。映画にもなったのでご存知の方も多いだろう。ポーランド人(ユダヤ人ではない)のソフィーが第二次世界大戦中、2人の幼い子どもと共に強制収容所に送られる。そこで、ふたりの子どものうちどちらか一方を、死の収容所に行かせるよう選択を迫られる。結局、どちらの子どもとも死に別れることになったようだ。この残酷な選択はいったい何だったんだろう。看守の残虐な楽しみだったとしか思えない。ほんとに戦争は、人にこういうひどいことをさせる。
ともかく、収容所を生き延びたソフィーは、アメリカに渡ってどこか自暴自棄な生活を送り、最後は死んでしまう。その死にかぶさるのが、小説の中では、バッハの「主よ、人の望みの喜びよ」だった。わたしはこの曲がほんとうにぴったりだと思い、頭の中に流れるこの曲を聞きながら、ソフィーの魂の平安を祈った。
その後、映画化された作品を見た。ソフィーを演じたメリル・ストリープはそれはみごとな名演だった。ラストが近づくにつれ、「ラストシーンはバッハで思いっきり感動しよう」と、わたしはかなり楽しみにしていた(^^ゞ
ところが、映画のラストはバッハではなく、ホイットマンの詩集『草の葉』のアップだったのだ。バッハの音楽が流れなかったことで、わたしはひどくがっかりした(^^ゞ
それで、当時お世話になっていた(今もときどきお世話になる)D大学教授(現名誉教授)のS先生(ご専門は英詩)にそのことをお話しして、「えらくがっかりしました」と言ったところ、先生は、「いや、『草の葉』はぴったりだと思いますよ」とおっしゃったのだ。話題はすぐ変わってしまったので、それ以上この件についてはお話を聞けなかった。
それ以来、ホイットマンの『草の葉』をめくる機会があるたびに、わたしはこの作品中にソフィーの姿を探してしまう。いったいこの作品のどこが、『ソフィーの選択』のラストにふさわしいのだろう? わたしは今もわからない。あるいは、作品そのものではなく、アメリカにとっての『草の葉』の意味が重要なのだろうか?
二十年近くを経て、S先生にお尋ねしてみようか……