『磁力と重力の発見 2』

磁力と重力の発見〈2〉ルネサンス

磁力と重力の発見〈2〉ルネサンス

ルネサンス」というのは手垢にまみれた言葉だ。「○○ルネサンス」という言葉はいろいろな局面でいろいろなニュアンスで使われ(おおざっぱには「再生」だが)、「○○町ルネサンス」などといえば、「村おこし」とほぼ同義語だったりする。


ここまで話を広げず、ヨーロッパのルネサンスに限定したとしても、ルネサンスという言葉は非常にあやふやで断片的な(もっと言えば、各人勝手な)イメージにもとづいて使われているように思う。


わたし自身、ヨーロッパのいわゆるルネサンスとの出会いは、ご多分に漏れず、大学に入ってからよく見るようになった絵画を通してだった。ワイリー・サイファーの本


は面白かったけれど、わたしは当時も今も文学はさっぱりなので、美術の様式に関する話だけをつまみ食い的に読んだだけだった。そして、美術の話だけでは、ルネサンスの思想はわからないのである(文学に関する話を読めばわかるかどうかは不明)。


『磁力と重力の歴史 2』を読んで思い知ったが、磁力(この時期は、まだ重力以前と言っていい)は、ルネサンスに切り込む視点としては、実にパワフルだ。ケーススタディーの威力を見せつけられた思いがする。


   ところで恥をさらすようだが、わたしははじめ、「なんで磁力なの?」と
   思っていた。わたしの中では、磁力というのはそれほど重要な力ではな
   かったのである。しかし読んでびっくり、磁力は、遠隔力(つまりは魔
   術的な力)に対して、唯一、具体的な実例を提供し、それゆえ思想的に
   は長らく重要な位置にあったのだ。ちなみに、少し前にこの読書メモで
   取り上げた『北方民族文化史』には、『磁力と重力の歴史』のなかで何
   度か言及される「北方にある磁石の山」が、まことしやかな版画として
   描かれていた。


通常、科学史ではルネサンスというのは非常に軽い扱いになるのだが、それは、


  中世スコラ哲学への反動→近代機械論的哲学


という大枠で科学史が捉えられるからである。事実は必ずしもそういう構図にはなっていないということを説得的に論じているのが本巻だ。とくに迫力があるのは(わたしにとって)、デッラ・ポルタに関する最終章。主著のタイトルが『自然魔術(Magia naturalis)』であることもあって、科学史とはそぐわないとみなされがちな(たぶん)デッラ・ポルタだが、この人の思想と実践は実にパワフルで感動的だ。


科学嫌いで神秘主義が好きな人にも、神秘主義が嫌いで科学好きな人にも、「ルネサンスと言えば唇寒し(なんとなくわかってないという自覚がある)」という人にも、ぜひ一読をお奨めしたいルネサンス本である。


書きたいことの百分の一も書けてないけれど、何も書かないよりマシという方針で、まずはこれだけ書いておこうと思う。