『偉人と語るふしぎの化学史』松本泉著(ブルーバックス)
偉人と語るふしぎの化学史―化学法則が生み出されるプロセスを追体験する (ブルーバックス)
- 作者: 松本泉
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2005/01/19
- メディア: 新書
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F高校で化学を教えている藤崎先生のもとに、ある日こんな手紙が届いた。
ご招待状
このたび、当研究所は時間旅行ができる薬品・タイムメディシンの合成に成功いたしました。つきましては理科教育に携わる人びとを対象に、希望者に本薬品をご提供いたします。
ただし、使用目的は「生徒を化学の歴史誕生の瞬間に立ち会わせる」ことに限ります。
また、使用回数は三回までとします。詳しくは直接お問い合わせください。
こうして藤崎先生は(ちなみに、先生は青森出身だそうだ)、化学部のまどかと裕太を連れて、紀元前五世紀のアテネ、1791年のパリ、1830年のマンチェスターに旅立つ。
今風のキャラクターがとってもかわいいし(まどかちゃんのサービスショットもあるよ♥)、どの場面もそれぞれに感動的だ。あっという間に読めてしまい、しかも読み終わってなんとも言えない余韻がある(期待していたアユ所長はついに登場しなかった。若い美女だそうだ。とすると、やっぱりあれか? 著者はファンなのか?)
●アテネでは、やはりタイムトラベルで招かれたアリストテレスやタレス、アナクシメネス、ヘラクレイトス、エンペドクレス、デモクリトスが公開討論を行う。なんといっても討論会の司会を務めたアリストテレスがすてきだ(*^^*)。ハンサムな上によく通る声、落ち着いて配慮のある進行ぶりはさすがである。デモクリトスの発表では思わず我を忘れて興奮してしまうあたりもなかなかリアルだし(^^ゞ。 まどかの意見や藤崎先生の簡潔なコメントも理解の助けになる。
●わたしは、今現在の関心が古代や中世にずれているので、フランス革命の時代を背景とする第二部は、第一部ほど興奮しないだろうと予想したのだが、なんのなんの、こちらもとても面白い。ラボアジェ V.S. フロギストン軍団の迫力の対決だ。若くて美人で聡明なラボアジェの妻マリーも登場。しかしこの話を読みながら、心の中ではずっと、その後のラヴォアジエの運命を思わずにはいられなかった。ラストのまどかちゃんのセリフ、「……ラヴォジエさん、そしてマリーさん、さようなら……」にうるうるしてしまった。
●産業革命まっただなかのイギリスでは、ドルトン、ベルトレ、プルースト、アヴォガドロ、ゲイ=リュサックの、白熱しつつも紳士的なやりとりが展開される。それぞれの人柄が印象的(ドルトンってマンチェスター市民にそんなに慕われていたのか)。アヴォガドロの分子概念の先駆性……混線のなかで原子論の骨格がしだいに浮かび上がってくる。現代的原子論誕生の現場に立ち会う臨場感満点だ。
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↑というぐあいに、ずっぽりハマって読んでしまったσ(^^;) わたしは若いころは科学史にはまったく興味がなかった。最先端にばっかり興味があった。そんなわたしもようやく、人間はどういう条件の中で何を考えたのか、そこのところが面白いと思うようになってきた。著者の松本氏は公立高校の先生だそうである。きっと日頃から、生徒さんたちに化学のドラマを伝えておられるのだろう。
著者の松本先生、これからもすてきな授業をしてください。応援してます!
そして、わたしにも楽しいひとときをありがとうございました。